TVアニメ『あしたのジョー』放送開始50周年を記念したイベントが東京都中野区・野方区民ホールで開催されたので、行ってきました。
このイベントを主催したのは、横浜市西区・藤棚商店街近くにある日本最小のフィルム映画館「シネマノヴェチェント」のアニメ部門(?)「アニメ★ノヴェチェント」。
今回は、劇場版『あしたのジョー』上映と合わせて、アニメファンにはたまらない豪華ゲストが登壇し、トークショーが繰り広げられました。
覚えている範囲で紹介します。※ネタバレ注意
場内は1席ごとに、ゲストの野口正恒さんが描いた感染防止対策のコメントが入ったキャラクターの絵が貼ってありました。
アニメ化50周年特別企画!『あしたのジョー』劇場版上映+トーク&ライブ》 密を防ぐために各席毎に配置した画について沢山のお問い合わせ頂きましたのでサムネール画像添付します。 横18席に対し9種の画を描きました。 皆様本当にありがとうございました。 pic.twitter.com/LTxjQgyiUH
— 野口征恒(あしたのジョーイベント企画中) (@Chom2Start) November 23, 2020
はじめに、マンガ『あしたのジョー』の作画を担当した、ちばてつや先生のビデオメッセージが流れ、「近所に住んでいた手塚治虫先生が『今度、ウチ(虫プロ)でアニメを作ることになったのでよろしくお願いします』と、下駄履きで来られた」など、アニメ化にまつわるエピソードを語りました。
続いて、TVアニメの主題歌を歌った尾藤イサオさんが登場し、『あしたのジョー』を披露。年齢(御年77歳)を感じさせないパフォーマンスで観客を魅了しました。MCでは、ジョーのライバル・力石徹の葬儀が講談社講堂で行われた際、現役ボクサーと一戦交える寸劇で登場、尾藤さんが繰り出したパンチが相手の顔をかすめたことから、逆に本気で殴られて、しこんでいた血のりではなく、本当に血を流しながら歌唱した、というエピソードを披露し、会場を驚かせました。
さらに「数多いヒット曲の中から」と前置きして『悲しき願い』をスタンドマイクをくるくる回しながら熱唱。
そして、ゲストの丸山正雄さん(TVアニメ版企画・脚本を担当)、野口正恒さん(アニメータ―、あしたのジョー研究家)が登場。尾藤イサオさんと3人でのトークコーナーへ。
主題歌『あしたのジョー』で印象的なハミング「るるる~」の部分に歌詞が存在していたことを明かしました。野口さんが発掘した「幻の歌詞」を当てはめて尾藤さんが生歌を口ずさむと、メロディに歌詞がはまらないことが判明。レコーディングの現場にいた丸山さんが「作詞した寺山修司の歌詞が先にあったから、音にはまるかわからなくて、仮だった」「尾藤さんが即興で歌ったハミングがよかったので採用した」と当時を振り返りました。
ちなみに、尾藤イサオさんが主題歌を歌うことになったきっかけは、主題歌や劇伴の作曲者である八木正生さんに推薦によるものだったとのことです。
イベント前日に誕生日を迎えた尾藤さん。関係者席にいたボクシング元世界チャンピオン・内藤大助さんから花束を贈呈される一幕も。劇場版『あしたのジョー』の主題歌『美しき狼たち』(おぼたけしさんのカバー)を歌いステージを後にしました。
アニメ化50周年特別企画!『あしたのジョー』劇場版上映+トーク&ライブ》 尾藤イサオさんにはルルル~部分の幻の歌詞を遂に熱唱(初披露!)して頂き感激でした。本当にありがとうございました。 尾藤さん主演映画『感謝離』も大変素敵な映画なのでご覧出来る方は是非です! pic.twitter.com/96J4EXSZun
— 野口征恒(あしたのジョーイベント企画中) (@Chom2Start) November 23, 2020
休憩をはさみ、丹下段平芸人・ガンリキ佐橋さんが無茶ぶりで登壇し、モノマネで場を温めると、丸山正雄さん、野口正恒さんに森川ジョージ先生(マンガ『はじめの一歩』作者)が加わり、鼎談(ていだん)がスタート。
野口さんが丸山さんが「小林幸」というペンネームで脚本を担当した回の絵コンテの一部をスクリーンに映し出しながら、話を進めていきました。
「脚本家といっても本番のシナリオを書いたわけじゃない。出﨑統(でざき おさむ:チーフディレクター)はシナリオがないと仕事をしないタイプだったので、私はそれを引き出すというか、いろいろと調整する役回り。実際のシナリオはほとんど出﨑が書いていた」と、丸山さん。
TVアニメ制作について「そもそも『あしたのジョー』のアニメをやりたい、と出﨑が私にマンガを持って相談してきたのがきっかけ。それまで出﨑とは麻雀仲間でしかなかったのですが(笑)。マンガの切り抜きでパイロットフィルムを作りました。そこで『止め絵でもアニメが成立するじゃないか』と気づきまして。2回目は実際にアニメを作って動かしてみたけど、手塚アニメの丸っこい線になってしまったんです。『これじゃダメだ』と『佐武と市捕物控』の作画を手掛けた杉野昭夫(作画監督)を、虫プロから独立した荒木伸吾(作画監督)のいる作画スタジオ「ジャガード」に送りこんで、3回目のパイロットフィルムに取り組みました。この3回目のものがフジテレビに好評でアニメ化の話が前進したんです」と説明しました。
1回目のパイロットフィルムは残っておらず残念とのことで、2回目のパイロットフィルムではジョーの役を富山敬さんがつとめた、とも。
野口さんが力石が少年院を出て行く場面(22話)の絵コンテをスクリーンに映し出すと、丸山さんは「ここはスローモーションが続く演出なのでどうなるかと思ったけど、出来上がりを見て、後は出﨑に賭けようと腹をくくった」と、舞台裏を明かしました。(この回あたりを境に脚本家の雪室俊一さんが離脱したのでは、と思われます)
また、野口さんが力石戦の終盤を描いた「第50話 闘いの終り」「第51話 燃えつきた命」の絵コンテを見せながら、おのおのでジョーがダウンする描き方が違うことを指摘すると「あれは出﨑が50話(のKOシーン)が気に入らなかったんですよ。で、51話の冒頭で描きなおした」と、丸山さん。
「どちらの方がリアリティがあるんでしょうか?」と、森川先生に話をふると「えっ、ここで!?」と驚きつつも「あんなアッパー、誰もやらないですよ。(TVアニメを放送していた)当時も沼田(義明)くらいじゃないですか。そもそもクロスカウンターがファンタジーですからね」と、自身もボクシングジムを運営する立場からコメント。
「そもそも私は『あしたのジョー』を否定するところから始めましたから。(マンガ『はじめの一歩』では)現実的に描こうと」(森川先生)
すると丸山さんは、当時のスポーツアニメは『必殺ワザ』、大リーグボールのようなものを取り入れざるを得なかった、とアニメ制作サイドの事情を説明しました。
マンガ『はじめの一歩』のTVアニメを担当したのは、丸山さんが立ち上げたアニメ制作会社「マッドハウス」。『はじめの一歩』はアニメ化、実写化の話がいくつも森川先生のもとに寄せられていたが「すべてお断りしていた」(森川先生)とのこと。しかし、スタッフを通じてマッドハウスの評判を聞き、話を聞くことに。丸山さんを筆頭に7~8名が森川先生のもとを訪れ、誠意を感じた森川先生はアニメ化を決断。その時につけた条件は「気に入らないシーンがあったら、すぐに『放送をやめてくれ』と言いに行く」ことだったと明かしました。
TVアニメ『あしたのジョー』の主人公・矢吹丈に俳優のあおい輝彦さんを起用したことについて「当時、ジャニーズ事務所に所属していたので、たいへんだったのでは」と、丸山さんに話をふると「当時、虫プロの音響部が独立して会社を立ち上げて、そこから紹介されたと思います。あおい輝彦さんのジョーは最初のうちは違和感があったことを覚えています。今はもう慣れましたけど」と答えました。
その一方で、TVアニメ『はじめの一歩』の主人公・幕之内 一歩(まくのうち いっぽ)に喜安浩平さんを起用したのは、丸山さんの強い要望によるものだったとのこと。
「オーディションには100名ぐらいが参加したのですが、まだ無名だった喜安さんは自分の名前を噛んでしまって。本来ならばそこで落選ですが、田舎っぽいところが気に入って。5人の審査員のうち、支持したのは私だけだった」(丸山さん)
「森川先生は一歩役の候補者の声は聞いたんですか?」と野口さんがたずねると、「すでに決定したところで聞いたと思います。マンガを描く時は声が浮かんでこないんですけど、アニメ化以降は、喜安さんの声で描いています。その他のキャラクター(の声)も気に入っています」と、アニメ化を全肯定しました。
最後に森川先生が『あしたのジョー』がいかにすごい作品であるかというエピソード(週刊少年マガジンが発行部数日本一になった時の表紙について)をアツく語り、トークショーは終了。
[あしたのジョー、アニメ化50周年記念トーク&ライブ]にゲストで行ってまいります。
— 森川ジョージ (@WANPOWANWAN) November 23, 2020
連載は1968年からなので52年となります。連載が終わってからも幾度も話題になる漫画は珍しいので本当に凄いな、と実感します。
1998年のマガジン日本一記念号も誌面に載っていないジョーが表紙です。
象徴なのです。 pic.twitter.com/nIIB76NfFn
この後、劇場版『あしたのジョー』を上映し、長時間にわたるイベントは幕を閉じました。
主催した方々、関係する方々、登壇された皆さま、貴重な機会を作っていただき、ありがとうございました。
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