横浜ウォッチャー

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横浜美術館で「身体」がテーマのグループ展「BODY/PLAY/POLITICS」開催

10月1日から横浜美術館で企画展「BODY/PLAY/POLITICS」がはじまりました。「身体」が生み出すイメージをモチーフに、国内外6人の現代作家がそれぞれの角度から作品化したグループ展です。

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同展に出品している6人の作家と今回の作品について紹介します。

 

イギリスで生まれ、ナイジェリアで育ったインカ・ショニバレMBEは、大航海時代以来続くアフリカとヨーロッパの関係に言及する3作品を出品。彼の作品のトレードマークは、ロンドンで入手した「アフリカ風の」ろうけつ染めによる布です。こういった布は、インドネシアのデザインを元に、オランダ人によって大量生産され、最終的には植民地である西アフリカで売られてきた、という歴史的背景があります。それはやがて、アフリカのアイデンティティと独立を象徴するものとなりました。

 

《さようなら、過ぎ去った日々よ》(2011年)は、ろうけつ染めで作られた19世紀フランス風のドレスをまとった黒人女性歌手が登場する映像作品で、ヴェルディ作曲のオペラ『椿姫』のヒロイン、ヴィオレッタに扮して、アリアの一節を繰り返し歌い続けます。

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▲《ハイビスカスの下に座る少年》(展示風景)2015年、Courtesy the artist and James Cohan Gallery, New York……作家が幼少期に過ごしたナイジェリアでの思い出にまつわる作品

 

f:id:travelyokohama:20161022072749j:plain▲《蝶を駆るイベジ(双子の神)》(展示風景)2015年、Courtesy the artist and James Cohan Gallery, New York……ナイジェリアのヨルバ族は双子が生まれる確率が高い民族のひとつで、双子は家族に幸運をもたらすとされる存在なのだとか

 

マレーシアの女性作家イー・イランは、東南アジアの民間伝承で知られる女性の幽霊、ポンティアナック(マレーシアでの名称)をモチーフにした映像インスタレーションを出品。現代の若者の姿を通して、女性たちの暴力的な経験の象徴としてのポンティアナックを蘇えらせています。彼女たちはポンティアナックの姿で、彼や夫との関係、セックス、女性特有の出産へのプレッシャーなどについておしゃべりしており、声を通して、彼女たちの本音を聞くことができます。

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▲《ポンティアナックを思いながら:曇り空でも私の心は晴れ模様》(展示風景)2016年、(C)Yee I-Lann のワンシーン

 

映画監督としても知られ、今年、日本で熱い注目を集めるタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン。本展では、日本初公開のビデオ・インスタレーション《炎(扇風機)》2016年 と《ナブアの亡霊》2009年 を披露します。彼が興味を抱いている光、とりわけ「炎」を作品化したもので、扇風機が炎を消し去ろうとしたり、あおったりするようす、火の玉でサッカーに興じる少年などが映し出されます。《炎(扇風機)》は、直接的な「身体」は登場しませんが、激しい炎はまるで生きもののよう。

 

作家が生まれ育ったタイの東北地方は軍の弾圧を受け、抑圧された記憶が残っているエリア。人によっては美しくみえる炎ですが、作家自身は自宅が焼かれたり、森に隠れた共産主義者の村民を襲った照明弾の光といった記憶にも重なってくるとのこと。詩的な象徴性に満ちた映像で、ふるさとが持つ政治的に複雑な環境を描き出しています。

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▲「ふるさとは住み心地がよく、愛しているけれど、危険性もあるという背景を含んでいる作品。炎の動きを、自由に解釈して欲しい」と語る、アピチャッポン・ウィーラセタクン

 

ベトナムを拠点に活躍するウダム・チャン・グエンは、ベトナムの道路の主役ともいえるオートバイをモチーフとした映像インスタレーション《機械騎兵隊のワルツ》2012年と《ヘビの尻尾》2015/2016年 を発表。

f:id:travelyokohama:20161022072906j:plain▲「初めてオートバイに乗った時、『流れに身を任せて進んで行けばよい』と気づいた」と、ウダム・チャン・グエン氏は作品のヒントについて語ってくれました

 

f:id:travelyokohama:20161022072932j:plain▲《ヘビの尻尾》(展示風景)2015/2016年、(C)UuDam Tran Nguyen. Courtesy of the artist. の一部分。排気口から長く延びるビニールチューブが、まるで暴れる大蛇のように跳ねまわります

 

2015年に衝撃的なデビューを飾り、今、もっとも注目される写真家の一人、石川竜一。初めて公開される沖縄と県外各地で撮影された《portraits 2013-2016》、拠点としている沖縄・那覇で数年に渡って取材を続けるふたりの人物《小さいおじさん》《グッピー》を発表します。

 

《小さいおじさん》《グッピー》は、第二次世界大戦後の沖縄で波乱万丈の人生を送った男性と、独自のファンタジックな世界観の中に生きる女性をとらえたシリーズ。道端で声をかけ、その後もつきあいが続いたうちのふたりで、わたしたちが持つ沖縄のイメージからはかけ離れた、多種多様な生のリアリティを写し出しています。

f:id:travelyokohama:20161022073007j:plain▲「僕がいる場所で、出会った人たちのポートレート作品です。コンセプトは持っていません。ひとつのテーマで何かしようとしていくと、何も見えなくなる気がして……。コントロールできない、ギリギリの意識の中で、テーマを持たず、──言葉にすると個人的なことになってしまうのですが──その個人的な思いがポートレートに重なっていることがおもしろいのかな、と思っています」と語る、石川竜一氏

 

同展を締めくくるのは、新進気鋭の現代美術家田村友一郎。映像や写真、インスタレーション、パフォーマンスなど多彩な手法によって、その土地の記憶や歴史を掘り起し、時空を超えた新たな物語へと変換し、その現代的意味を問うような作品を発表してきました。《裏切りの海》2016年 で取り上げるのは、占領下の横浜に、米兵によって持ち込まれた、鍛えられた身体とその生成をめぐる物語です。

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▲内覧会ではボディビルダーが登場、《裏切りの海》(展示風景)2016年 の作品の一部となっていました(残念ながら、会期中はボディビルダーは登場しません)

 

戦後の横浜を闊歩した米兵の肉体に魅せられた一人の少年(後に日本におけるボディビルディングの第一人者となる人物)の回想、占領下の横浜港からアメリカ、ギリシャへと旅立った小説家 三島由紀夫(後にボディビルディングの第一人者から肉体改造の訓練を受ける)、横浜を舞台にした三島の小説『午後の曳航(えいこう)』、2009年に横浜で海中からバラバラにされた遺体が発見された殺人事件、1972年にイタリア リアーチェの海底から発見された古代ギリシャの戦士たちのブロンズ像、戦中・終戦直後・戦後という3つの時制が重なり合う横浜の地図が描かれた3台のビリヤード台などなど、港町のバーを模した空間に、小さな断片がつながり合うことで描かれた作品です。

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▲さまざまな断片がつながりあった作品《裏切りの海》(展示風景)2016年。古代ギリシャの戦士たちのブロンズ像の一部はグランドギャラリーにも展示されています

 

さまざまな関連イベントにも注目

同展は毎年1~2月に開催される「横浜ダンスコレクション」と連携しており、美術とダンスの両面から身体が生み出す表現を掘り下げるライブパフォーマンス(10月28日)も予定されています。くわしくは⇒こちら

 

10月26日(水)、11月26日(土)には、「夜の美術館でアートクルーズ」と題し、閉館後の美術館を参加者だけで独占できる特別な鑑賞会を開催(要事前申込、3000円)。学芸員の展示解説と、作家の生の言葉を聞き、心行くまで展覧会が楽しめます。くわしくは⇒こちら

 

コレクション展もお見逃しなく

f:id:travelyokohama:20161025131607j:plain▲國領經郎《飛行船の浮ぶ港の風景》1993年 國領經郎氏寄贈 横浜美術館

 

同時期に開催される横浜美術館コレクション展もじっくり見たい作品が目白押し! 今回のコレクション展は、「描かれた横浜」「イメージをかさねる」「風を聴くー自然の気配をうつす美術」「かたちの変容」という4つのセクションで構成されています。「描かれた横浜」では、ボランティアと一緒に作品に描かれた場所を巡る「街歩き」のプログラムも予定されています。⇒こちら

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▲横浜が描かれている作品にまつわる場所がマッピングされています

 

また、11月3日は無料開館となりますので、これを機に、横浜美術館で芸術の秋を堪能してみては。

 

■企画展 BODY/PLAY/POLITICS
期間:2016年 10月1日(土)~12月14日(水)
場所:横浜美術館
時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
※10月28日(金)は20:30まで(入館は20:00まで)
休館日:木曜日 ※11月3日(木・祝)は無料開館、11月4日(金)休館
料金:一般 1500円、大学・高校生 1000円、中学生600円、小学生以下無料、65歳以上 1400円(要証明書、美術館券売所でのみ対応)
※同チケットで横浜美術館コレクション展も観覧可

yokohama.art.museum

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