横浜で3年に一度開催されている現代アートの国際展「ヨコハマトリエンナーレ2020」が2020年7月17日(金)に開幕。新型コロナウイルスの影響で、当初の予定より2週間開幕が延期されていました。
主会場は、横浜美術館、プロット48(横浜アンパンマンこどもミュージアム&モール跡地)、このほか日本郵船歴史博物館でも作品展示があります。会期は10月11日(日)まで。開幕前日に開催された内覧会の様子をレポートします。
<INDEX>
- 同展初となる外国人ディレクターを起用
- タイトルの「AFTERGLOW(アフターグロウ)」とは
- 5つの「ソース」で展覧会を構成
- 横浜美術館の主な作品紹介
- プロット48の主な作品紹介
- 日本郵船歴史博物館の作品もお見逃しなく
- チケットは予約制、十分な安全対策を講じての開催
- 展示と「エピソード」の2本立てで開催
同展初となる外国人ディレクターを起用
第7回展となる今回は「AFTERGLOWー光の破片をつかまえる」と題し、目まぐるしく変化する世界の中で、大切な光を自ら発見してつかみ取る力と、他者を排除することなく、共生のための道を探るすべについて、考えようというものです。
アーティスティック・ディレクターをつとめるのは、インド・ニューデリーを拠点とし世界で活躍する3人組アーティスト集団 「ラクス・メディア・コレクティヴ(Raqs Media Collective)」。同展では初めての外国人ディレクターとなります。
参加アーティストは67組。アジアやアフリカなどを含む参加地域の多様さに加え、20代、30代の若いアーティストが半数を占めており、日本で初めて作品を発表するアーティストはもちろん、同展のために新たに制作される作品やプロジェクトなど、いま、最も刺激に満ちた現代アートを堪能できる内容となっています。
新型コロナウイルスの影響で、来日できないまま開幕を迎えたディレクターの3人。「世界に点在する関係者とビデオ会議システムなどでミーティングを重ね、これまでの100倍の信頼と気配りをもって、類をみないクリエイティビティで、遠隔でやり遂げました」と、オンラインで記者会見の場に登場しました。
タイトルの「AFTERGLOW(アフターグロウ)」とは
タイトルの「AFTERGLOW(アフターグロウ)」とは、ビッグバンの後、宇宙に発せられ、今も私たちに降り注ぐ光のこと。時空を超えて広がる光をイメージしています。
同展は、コロナ禍にありながら、世界のトップを切って開催が決定された大規模展覧会。今こそ、アートが必要とされている、というメッセージを発信し、世界のアートファンやアーティストに勇気を与え、街に活気をもたらすとしています。
5つの「ソース」で展覧会を構成
今回は、他の美術展のようにコンセプトやテーマをガッチリとは固めず、5つの「ソース(考えの源という意)」を掲げ、アーティストや観覧者が考えながら、ゆるやかに流れるように展覧会が構成されているのが特徴です。
その5つのソースとは……
独学──自らたくましく学ぶ
発光──学んで得た光を遠くまで投げかける
友情──光の中で友情を育む
ケア──互いを慈しむ
毒──世界に否応なく存在する毒と共存する
同展組織委員会の副委員長で、横浜美術館 蔵屋美香館長は、同展を開催する意義について次のように紹介。
「自分で考え、光を発し、ひとをいたわり、共に生き、毒とも共存する──まさにコロナ後の世界を生きる私たちにとって必要な知恵といえます。
これらの5つのソースはコロナウイルスが蔓延する以前、昨年発表されたものです。現代美術というのは、一歩先の未来を考え、アーティストがつかまえた未来を予知してしまうことがあります。今回は、ディレクターであるラスクがつかまえた『一歩先の未来』に追い付いて展覧会を見るということになった、と感じています。
ヨコハマトリエンナーレ2020は、五感を働かせ、ふしぎを楽しみながら、ひとりひとりが新しい世界を生きるすべを見つけるための場所です」
横浜美術館の主な作品紹介
横浜美術館のエントランスホールに入ると、同展を象徴する作品 ニック・ケイヴ《回転する森》2016/2020 が展示。
アメリカの庭でよく飾られる「ガーデンスピナー」を天井からつるしたダイナミックな作品で、ガーデンスピナーがくるっと回転する際に乱反射して美しい光を発し、宇宙のビックバンに紛れ込んだような雰囲気を醸し出します。中にはピストルなど怖いモチーフも含まれていて、美しい光と毒が共存する様を感じられます。
横浜美術館内の作品解説パネルは、ラスクの意向に基づき、3つの段落に分かれています。はじめの段落は「作家自身の言葉や参考作品からの引用」、2番目の段落は「作品の詩的な解釈」、3番目の段落は「作家・作品に関する説明」が書かれています。
「お互いを思いやる」「傷んだ心を修復する」というテーマが強く出ているのが、竹村京(けい)の作品群。コーヒーカップなど、割れたり、壊れたりしたものを「蛍光シルク」という糸で縫って修復した作品が、暗闇の中で光を放ちます。
光にあたると毒を作り出す植物「ジャイアント・ホグウィード」をモチーフとした作品インゲラ・イルマン《ジャイアント・ホグウィード》2016/2020。巨大な植物の周りを歩きながら、毒を持っていることの美しさ、光や毒との共存について考えさせられる作品となっています。
素描、版画、刺繍など、創造の赴くままに線を引く作品を制作するインドのアーティスト、レーヌカ・ラジーヴの作品群。素描、版画、刺繍など、創造の赴くままに線を引く作品が特徴で、人や植物や文様が絡み合うように描かれ共存する世界を表現しています。
柔らかな素材を使って彫刻を制作するアーティスト、 エヴァ・ファブレガスの作品《からみあい》2020。ディレクターをつとめるラクス・メディア・コレクティヴは、同作品について、人間の腸のような形状であることに興味を持ったそう。腸内には多くの菌が存在し、ヒトの身体が人間だけのものではなく菌と共存していること、内側にありながら外ともつながっていることに着目し、展示されることとなりました。こちらの作品は手の消毒後、実際に触れることのできる作品となっています。
横浜美術館に隣接する「旧 レストラン」にも、ジャン・シュウ・ジャンの映像作品と映像に登場する人形の展示が行われていますので、お見逃しなく。
▲横浜美術館に隣接するミュージアムショップでは、公式グッズ、関連グッズ、アーティストグッズなどを販売。横浜で作られたマスクを発見!
▲Cafe小倉山では同展とタイアップした限定メニュー2種も販売。「光のレモンソーダフロート(550円税別)」。トレイのシートは持ち帰り可能なメイク・オア・ブレイク(レベッカ・ギャロ&コニー・アンテス)の作品となっています
さとうりさ作品はもうひとつの主会場「プロット48」にも展示されています。
プロット48の主な作品紹介
横浜美術館から徒歩約7分、移転した横浜アンパンマンこどもミュージアム&モール跡地を利用した会場「プロット48」の主な作品を紹介します。
南棟(1~3階)、北棟(1階)の展示スペースのほかに、入場チケットなしでも入れる「ビックリエイティブ・ショップ」があります。
5つのソースすべてを盛り込んだ作品として紹介されたのがラヒマ・ガンボ《タツニヤ(物語)》2017 作品群。写真と映像によって、女の子たちが無邪気に遊んでいる様子が映し出されています。この女の子たちは、イスラム教の過激派の襲撃に繰り返し遭い、休校になっている学校に戻ってきた学生たち。「普通のこと」をするために勇気が必要であり、自らの意思で学校に通い、お互いをケアしながら友情をはぐくみ、危険と隣り合わせでも、キラキラと瞳を輝かせている──そんな姿から5つのソースを感じ取ることができます。
プロット48会場には、性的な表現の強い作品が並んでいるのも特徴的。南棟2階 エレナ・ノックス《ヴォルカナ・ブレインストーム(ホットラーバ・バージョン)》2019/2020 の作品群エリアでは、自己完結型環境水槽「エコスフィア」の中で繁殖行動をしなくなったエビを共通テーマとし、黄金町バザール2019での展示作品やワークショップで生まれた作品、テーマに呼応した他アーティストの作品が並びます。
街と会場をつなぐ場所に、植物や水槽が組み込まれた木製の枠が並ぶ作品、ファーミング・アーキテクツ《空間の連立》2020。水槽の金魚のフンは植物の養分となり、植物によって浄化された水は魚に棲みやすい環境を提供する様子を垣間見ることができる空間です。
プロット48には、事前予約制・体験型の飯川雄大《デコレータークラブ 配置・調整・周遊》2020 があります。一度に4名まで入場でき、約20分の入れ替え制となっています。実際に体験してみましたが、一緒に入った方々と協力して先へ進んでいくというもので、謎やネタがいっぱいでおもしろかったです。ネタバレになるので、写真はありません(というか撮り忘れました)。時間に余裕を持って予約し、ぜひ体験してみてください。
※追記:横浜美術館、プロット48の体験型作品は無料ゾーンにあるため、チケットは不要とのことです!
▲プロット48「ビックリエイティブ・ショップ」は入場チケットがなくても入ることができます。40組以上のクリエイター、トリエンナーレの参加アーティスト、トリエンナーレとのタイアップなど、さまざまな立場で制作されたクリエイティブなグッズが勢ぞろい。冷たいサイダーやビール、馬車道アイスも販売しており、隣りのレストスペースで飲食可
日本郵船歴史博物館の作品もお見逃しなく
主会場からは少し離れた海岸通りにある「日本郵船歴史博物館」でも、マリアンヌ・ファーミ《アトラス》2019(映像作品、4分30秒)、《アトラス シリーズ》2020(立体作品)が展示されています。
ヨコハマトリエンナーレ2020のチケット(もしくは画面)を提示すれば予約日時に関わらず観覧できます。また、同館に入場(要入館料)した方も作品を見ることができます。ヨコハマトリエンナーレ2020と開館日時が異なりますので、その点のみご注意を。
URL:https://museum.nyk.com/index.asp
チケットは予約制、十分な安全対策を講じての開催
開催にあたっては、(公財)日本博物館協会のガイドラインに沿って十分な安全対策を講じるとのこと。
チケットは日時指定予約制で、入場人数が制限されます。このほか、来場者のマスク着用、手洗い・消毒、入場時の検温、会場内の消毒、換気、対人距離の確保、スタッフのマスク着用や検温の徹底するとしています。
展示と「エピソード」の2本立てで開催
ヨコハマトリエンナーレ2020は、展示と合わせて、別途パフォーマンスやワークショップなどを行う「エピソード」の2本立てで進行。
エピソードは1~10までを予定しており、2019年11月の「エピソード00」からすでにスタートしています。
随時参加者募集などが行われますので、公式サイトをチェックしてください。
オンラインでは「エピソードX」として、アーティストの活動の様子などの動画も配信されていますので、公式サイトよりご覧ください。
ヨコハマトリエンナーレ2020 AFTERGLOW-光の破片をつかまえる
会期:2020年7月17日(金)~10月11日(日)
会場:横浜美術館(横浜市西区みなとみらい3-4-1)
プロット48(横浜市西区みなとみらい4-3-1 ※みなとみらい21中央地区48街区)
※日本郵船歴史博物館(横浜市中区海岸通3-9)にも作品展示あり
開館時間:10:00~18:00 ※最終入場は閉館の30分前まで
※10月2日(金)、3日(土)、8日(木)、9日(金)、10日(土)は21:00まで、会期最終日10月11日(日)は20:00まで開場
休館日:木曜 ※7月23日、8月13日、10月8日を除く
料金:一般2000円、大学・専門学校生1200円、高校生800円、中学生以下無料
URL:https://www.yokohamatriennale.jp/
※9月11日から開催される「BankART Life Ⅵ」「黄金町バザール2020」も合わせて楽しめる「横浜アート巡りチケット」も販売