横浜・山下ふ頭に実物大ガンダムを展示する施設「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA(ガンダムファクトリーヨコハマ、以下、GFY)が2024年3月31日をもって営業を終了。通常営業が終了した後に開催されたイベント「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA GRAND FINALE ~To the New Stage~」の取材に入らせていただきましたので、GFYの最終日の様子を紹介します(画像は筆者撮影、一部提供)。
- 最終日の通常営業は16:00で終了
- アップデートするたびに”動くガンダム”の演技力が向上
- 富野監督「ファンの方々のおかげで実現できた」
- 約1000機のドローンが夜空にラストシューティングを描く
- AIアムロ「君たちが描いた未来で、また会えることを」
- 富野監督「こんなにすばらしいものを…というのはほとんど嘘です」
- SUGIZO「神奈川県出身者にとってこれほど誇れるものはない」
- 富野監督「ガンダムには帰るところがある」
最終日の通常営業は16:00で終了
GFYは2020年12月19日にオープン。当初は2022年3月に終了予定でしたが、ファンの要望を受け、公開期間は2度延長されました。そして、2024年3月31日、最終日を迎えることとなりました。延べ175万人が入場したとのことです。
この日は19:00から「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA GRAND FINALE ~To the New Stage~」が開催されるため、通常営業は16:00で終了。前日からの故障の影響で、”動くガンダム”の演出は「起動実験」「スタンバイモード」のみとなっていました。
満身創痍になりながらも、役割を全うしようとする動くガンダム。これぞガンダムの生きざまだなと。最終日は事前に入場チケットを購入していたので、昼の最後の勇姿を見届けることができました。
アップデートするたびに”動くガンダム”の演技力が向上
19:00からの最終イベント「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA GRAND FINALE ~To the New Stage~」には特別チケットを購入したファン、関係者など約1500人が参加しました。
イベントはメディアアーティスト・落合陽一さんと「GUNDAM GLOBAL CHALLENGE」のシステムディレクター・吉崎航さん、テクニカルディレクター・石井啓範さん、クリエイティブディレクター・川原正毅さんによるトークセッションからスタート。
落合さんが「長い間、海風が強くて、関節が壊れそうな場所でようやったなと思っています。1年用でつくったものを3年持たすのは施工クオリティの高さですね 」と偉業をたたえると、石井さんは「中身を産業用の機械で固めていることもあり、3年間、よく頑張ってくれました。私たちは1年用といわれると、だいたい3年をみますから、3年というのはちょうどいいキリだと考えています。モーターやギアなど故障した時の予備品も用意していましたが、ほぼ使うことなく無事に乗り越えられました」と明かしました。
吉崎さんは「3年以上という期間、動かせるかどうかは本当にわかりませんでした。ただ、メンバーに関してはできそうな方たちが揃いました。実はこれが一番重要だったと思います。そのおかげで一緒にここまで走ってこれました」と安堵の表情を浮かべていました。
川原さんは「吉崎さんがF00ガンダムのソフトウェアをアップデートするたびに、ガンダムが観客と目を合わせるなど、演技力が増していくのが印象的でした。ガンダムの指先の動きなんて、最後は日本舞踊を踊れるんじゃないか、と思うくらいのレベルで…」と3年間の成果を説明。「コロナ禍が明けて、世界中から数多くの人が来場してくれました。世界中の人々がガンダムが好きなんだとあらためて感じました。あと1回、無事に動いてくださいと祈っています」と締めくくりました。
富野監督「ファンの方々のおかげで実現できた」
そして、“ガンダムの生みの親”である富野由悠季監督が登壇。
「『機動戦士ガンダム』という作品を発信させていただいて、45年経ちました。作品としては紆余曲折があり、20年経ったところでその後の作品のシリーズ化は若い世代の方にまかせ、今に至っています。アニメ、漫画、ノベルスだけでなく、ガンプラといったグッズなど文化的に拡大・展開し、社会に変化をもたらしました。そのような背景があったおかげで、大仏様のような造形を実際に建設し、工学的に実験することができ、有意義なイベントでした。この場所がなければ、実物大“動くガンダム”は実現できませんでした。また、この計画を技術的に実現するためにいくつもの会社にご協力いただきました。関係する方々には敬意を表し、心から感謝いたします。
スタッフは先ほど登壇された3名だけではないんです。膨大な数のスタッフが汗水流した努力のおかげでこのようなことが実現できました。そしてもっと重要なことは、ここにいらっしゃる皆さん、配信で見ていらっしゃるファンの方たちのおかげで実現できたということです。心から感謝いたします」と、何度も感謝の意を表しました。
約1000機のドローンが夜空にラストシューティングを描く
この後、「最後の起動実験」がスタート。一夜限りのストーリーが展開しました。AIアムロが出現し、これが最後の起動となることを告げ、「いつか、遠くはない未来でまた会おう。君とは分かり合えた気がする。僕にはまだ帰るところがあるから」と、F00のパイロットにメッセージをおくりました。
パイロットの「RX-78 F00ガンダム、未来へ向けて起動!」の言葉を合図に、動くガンダムの背後に花火が打ち上げられ、約1000機のドローンによるオリジナルドローンアートショーが展開。
ドローンが『機動戦士ガンダム』『機動戦士ガンダムSEED』『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のキャラクターやMS(モビルスーツ)を描きました。アニメ『機動戦士ガンダム』の最終回の名シーンである「ラストシューティング」も夜空に浮かび上がりました。
AIアムロ「君たちが描いた未来で、また会えることを」
F00のパイロットが「GUNDAM FACTORY YOKOHAMAでの最終起動実験、完了!」と、コックピットから出たところで、AIアムロが再び登場。未来に向けた以下のメッセージが語られ、すべての照明が落ち、幕を閉じました。
AI・アムロからのメッセージは次の通り。
「みんなありがとう。100年後の未来を想像して欲しい。
テクノロジーは人のコミュニケーションを促進しているだろうか。モビルスーツと呼ばれるロボットは人々の生活を豊かにするために使われているだろうか。
このGUNDAM FACTORY YOKOHAMAで行われた18mのガンダムを動かすという実験。この体験を共有した、たくさんの国や様々な世代の人たちに、この挑戦や出会いの記憶、この場所で生み出されたメッセージを未来に向けて伝え続けて欲しい。
そして子どもたち。未来をつくるのは間違いなく君たちだ。君たちが描いた未来で、また会えることを信じているよ。さようなら。そして、ありがとう」
富野監督「こんなにすばらしいものを…というのはほとんど嘘です」
すべてのイベントが終了後、富野監督、ガンダム40周年テーマ曲『THE BEYOND』を手掛けたLUNA SEAのSUGIZOさん、劇場版『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の主題歌などを手掛けた西川貴教さんが報道陣の囲み取材に応じました。
最後のイベントの感想について聞かれた富野監督は「いやぁ、こんなにすばらしいものを見せていただけるとは思っていなかったので、夢のようでうれしいです、というのは、ほとんど嘘です(笑)」と、冒頭から“富野節”がさく裂。
「この企画が始まった時に『ジャンプぐらいさせろ』と言いました。技術員たちから袋叩きにあいまして(苦笑)、現実的にはこんなものしかできないんだよっていうことで、ずっとガマンした数年間を過ごしました。ひとつだけ、うれしいことは、僕よりもずっと若い方、子どもたちが本当に喜んでくれて『自分たちもまた、追いかけるぞ』という顔を見せてくれたこと。絵空事でしか物事を考えてこなかった人間が、具体的に社会の中にこういうものを作ってもらうことによって、何が起きるのかを勉強させてもらいました。少し大人になったのかなという実感を持たせてもらったというのが、年寄りからの感想です。ありがとうございました」と、にっこり。
続けて西川さんは「感動しました。昨今はAIやVRといった技術は進んでいるんですけど、やっぱり実際にものを作っていく、日本のものづくりのすばらしさっていうのはきちんと踏襲されて行くべきだな、と。その大切さを学べたのではないかと思います」と、“動くガンダム”の意義を語りました。
SUGIZO「神奈川県出身者にとってこれほど誇れるものはない」
SUGIZOさんは「10年ほど前、この動くガンダムのプロジェクトがはじまったころから関わってきました。最終地点にまたこうやって、10年前には考えられなかった技術、AIやドローンといった時代を象徴するエンタメを見せてもらったことは、感慨深いです。僕は神奈川県出身なので、地元に錦を飾れた気持ちでおります。この美しい横浜、このロケーションがあって、景色があって、ガンダムがあって、奇跡のマリアージュというか。神奈川県出身者にとって、これほど誇れるものはないです」とコメント。
するとすかさず富野監督が「僕も神奈川県出身なので、同意です」と述べると、西川さんも「周辺から見るガンダムもすばらしくて。遠くから見るガンダムもきれいで。もういなくなっちゃうのがさみしいです」と、激しく同意しました。
富野監督「ガンダムには帰るところがある」
最後に、これからのガンダムに期待することを聞かれた富野監督は「舞台では言い忘れていました。ガンダムには帰るところがあるんです。これがファイナルではありません。『NEXT』というものを必ず開拓してくれるのがガンダムシリーズだと確信しています。またこういうものが新たに発生するように、応援してくださるとうれしいです」と、ファンに向けてメッセージを発信。
西川さんは「監督もおっしゃいましたが、こういう実物大のガンダムを見て、小さな子たちがものづくりをやりたいとか新しいことに挑戦してみたいって言ってくれるその姿が、本当にすばらしかったです」と話すと、SUGIZOさんは「僕も同意です。ガンダムは子どもたちにすてきな影響を与え、このガンダムを見て夢を持った。今日のグランドファイナルを見させてもらって、さらに未来への希望を感じました。ガンダム45周年、まだまだこれから走り続けられる。子どものころから僕が見てきた最強のエンタメであり、カルチャーであるガンダムが、よりパワーアップしてくれることが楽しみです。いちファンとしても期待しています」と、ガンダムの今後に期待を寄せました。
実物大“動くガンダム”は、解体されるとのこと。ファイナルイベントでは今後についての発表はありませんでした。が、遠くはない未来でまた会えることを信じています。
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